【長期研修:2024.11.26-2025.6.20】スイス, チューリッヒ大学:白 玉焜さん
チューリッヒ大学のJürg Hutter教授の研究グループに所属し、Hutter教授およびSatoh教授のご指導のもと、2024年11月から2025年6月までの7か月間、研修を行いました。本研修の目的は、第一原理分子動力学(AIMD)およびその拡張手法を習得し、ポリマー材料の加水分解機構を分子レベルで理解することにありました。
研究では、CP2Kを用いたAIMD計算とPLUMEDによるメタダイナミクスを組み合わせ、シアネートポリマーの加水分解反応経路を探索しました。特にトリアジン環の加水分解は極めて複雑であり、新しい知識とアプローチが不可欠でした。毎日シミュレーションを実行しても反応を観測できない時期が続きましたが、ある日偶然、反応が進行している結果を得ることができました。そこでその条件を詳細に解析し、再シミュレーションを繰り返した結果、5月にようやく反応経路を再現することに成功しました。この瞬間には大きな達成感を覚えるとともに、挑戦を続けることの重要性を改めて実感しました。また、反応座標の自動抽出や自由エネルギー障壁の定量化を可能にするPythonスクリプトを開発し、効率的かつ体系的に解析を進めることができました。
研修期間中には、研究室内での定例セミナー発表の機会もありました。毎週月曜日に1人ずつ順番で担当が割り当てられ、自分の研究テーマについて進捗を報告します。私もこの場で自身の成果を英語で発表し、同僚や先生方からの質問に答えました。発表後には議論が活発に行われ、特に水素結合ネットワークの役割について深い指摘を受けたことが、研究の精緻化につながりました。さらに、Hutter教授は毎日午後4時になると各研究室を回り、その日の進捗や疑問点について直接ディスカッションをしてくださいます。こうした日常的なやり取りを通じて、研究の方向性を随時修正しながら進めることができ、大変有意義な経験となりました。
研究室での生活においては、アメリカ、スウェーデン、中国、そして東京大学出身の研究者と共に研究を進めました。異なるバックグラウンドを持つ同僚たちと、最新の政治や経済の動向から研究に関する専門的な議論まで幅広く意見を交わすことで、科学的知見を深めるだけでなく、国際的な視野も大きく広げることができました。
一方、休日にはスイス国内を鉄道で旅し、豊かな自然を満喫しました。中でも、ジュネーブでフルマラソンを完走できたことは大きな達成感を伴う思い出です。また、フランス・ディジョンを訪れ、伝統的なワイン煮込み料理や地元のワインを味わった体験も忘れられないものとなりました。
今回の研修を通じて、最先端の計算手法を駆使した研究遂行能力を磨くとともに、多様な文化や価値観を持つ研究者との交流を通じて、国際的に活躍するために必要な素養を培うことができました。本研修をご支援くださったGP-Chemならびに関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。




