GP-Chem 東北大学 統合化学国際共同大学院東北大学
統合化学国際共同大学院

【長期研修:2023.11.10-2024.5.27】ドイツ,カールスルーエ:中島 優斗さん

長期海外研修として、気相イオンの構造研究のための実験および関連する研究手法の知識を深めるため、ドイツのカールスルーエ工科大学 (KIT) にあるManfred Kappes教授の研究室で7か月間(2023年11月から2024年5月)研修を行いました。Kappes研究室では、真空中での気相分子や気相イオンを調べるために高度な実験装置を使用しており、自作のものと市販の装置を組み合わせて様々な実験を行っています。私自身も、電子顕微鏡の組み立てや表面担持イオンのレーザー誘起蛍光の観測の準備を手伝う活動を通して、真空中での気相化学種を高精度で調べるための実験方法を学ぶことができました。

 

写真1: カールスルーエ工科大学 (KIT) の実験室の様子。私の自身の実験は左側の実験装置を用いて行いました。

 

私の研究テーマとも関連する内容として、この海外研修期間中にランタノイドハロゲン化物の構造を高精度で分離するためのイオン移動度分析を行いました。ドリフトセルを用いたこの実験は、ランタノイドのイオン半径の変化に依存する構造の変化を調べることを目的とし、全てのランタノイドの溶液を準備しました。実験では、ランタノイドの化学的性質を保ちながらもイオン半径が変化することで生じる構造の差異を観察しました。例えば、ランタノイドの種類に応じたイオン移動度の微細な変化を検出することができ、これにより構造の違いを詳細に分析することができました。Kappes研究室の実験装置は高い分解能と感度を持ち、測定には一回約30秒しかかからず、順調に進行した日は全ての種類のサンプルについて1日でデータを取得することができました。膨大な種類と条件のサンプルを扱いながらも、この実験の効率性と精度の高さを実感することができました。

 

写真2: KITでの実験で用いたサンプル溶液。Pm(放射性元素)を除いたすべてのランタノイド種についてサンプルを準備し、実験をしていました。

 

Kappes研究室では、毎日昼食時やコーヒーブレイクの時間(写真3)に、カジュアルに実験上の問題や研究の進捗、興味を持っているテーマについてディスカッションを行いました。これらの交流を通じて、知識を深め、研究への新たな視点を得ることができました。また、大学のセミナーや共同研究先の研究者の訪問を通じて、電気化学の中間体の質量分析による研究や表面上の炭素材料の電子顕微鏡による研究など、幅広い研究テーマに触れる機会も得ました。コミュニケーションや議論の上で、「発言の目的は何か」ということを始めの内は聞かれたため、どのような情報を伝えたい・引き出したいかを整理する習慣を身につけることが重要であると実感しました。(これは研究に限らず、日常生活の中で英語・現地の言語問わずにコミュニケーションを取る上で、躊躇わないことの次に重要なことです)

 

写真3: KITでのケーキを囲んだコーヒーブレイクの時間

 

ドイツは陸続きのため、鉄道やバスを利用して周辺国へのアクセスが容易です。休日には、ハイデルベルク(Heiderberg)城やネッカー(Necker)渓谷沿いをを鉄道で走り抜けて街並みや歴史に触れることができました。また、バート・ヴィルトバート(Bad Wildbad)やフロイデンシュタット(Freudenstadt)、バーデンバーデン(Baden-Baden)等の黒い森地方の都市や温泉療養地を訪れ、自然や風景、温泉を楽しみながら、これらの文化に触れました。また、国境を越えた先でも、フランスのパリやチェコのプラハを訪問し、異なる文化や街並みを楽しみました。日本以上に外国人が当たり前の存在であるためか、どの町でも地元の人々に溶け込んでいるように感じることができ、外国人としての壁をほとんど感じることなく過ごすことができました。異なる国の人々と触れ合う中で、文化の多様性を肌で感じ、私自身の視野を広げることができていると感じられました。

 

写真4: ドイツの街並みと黒い森の自然(Bad Wildbad)

写真5: パリの夜景

 

長く見えて一瞬で過ぎ去った7か月間でしたが、この研修を通じて、先端的な実験手法や研究技術を習得するとともに、国際的に活躍する研究者として必要な資質を身につけるための一歩を踏み出すことができました。

 

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