【長期研修:2025.2.28-2025.9.2】イギリス, オックスフォード大学:熊 浩然さん
2024年3月から2025年9月の6か月間、イギリス・オックスフォードシャーにあるオックスフォード大学(University of Oxford)で長期海外研修を行いました (Figure 1)。きっかけは、2023年にGP-Chemが協賛した講演会で、Darren J. Dixon教授による鮮やかな不斉有機触媒の設計と、それを用いた反応開発(詳細は下段に記します)に強く興味を抱いたことでした 。講演会後には直接Dixon教授に留学希望を伝え、幸いにも受け入れの許可をいただくことができました (Figure 2)。今回の例を含め、GP-Chemでの活動には博士課程の学生が研究者を志すうえで多くの“チャンス”が存在します。その一つを掴み、私は世界最高峰の名門であるオックスフォード大学に降り立ちました。
- Figure 1. オックスフォード大学 化学研究所
- Figure 2. Dixon教授(左)と私(右)
Dixon教授の研究プロジェクトにはいくつかの柱がありますが、私が留学中に取り組んだのは、先に述べた不斉触媒反応の開発でした。まず、不斉炭素とは、炭素原子に結合する4本の「手」にそれぞれ異なる原子や原子団が結合している炭素原子を指します。このような炭素を含む化合物は、しばしば鏡像異性体(2つで一対となる)を持ち、右手と左手のように重ね合わせることができません。不斉炭素は有機化学において極めて重要な概念であり、生体分子にも数多く存在しています。私が従事している研究は、医薬品候補となる複雑な天然物の合成であり、鏡像異性体のうち狙った一方を選択的に合成することが非常に重要です。そのため、不斉触媒反応は目的の化合物を選択的に得るための強力な手法となります。しかし、私の所属研究室は合成研究に特化していたものの、不斉反応の開発に関する知見は十分ではなく、私自身の研究も行き詰まりを感じていました。ちょうどその頃、Dixon教授の講演を聴講する機会があり、私は深い感銘を受けました。Dixon教授は不斉有機触媒を用いた反応開発の中でも、特にBIMPと呼ばれる触媒に精通しています (Figure 3)。この触媒は反応基質の求電子部位と求核部位の両方を認識・活性化できる特徴を持ち、さらに分子上の不斉中心によって基質を立体的に識別し、不斉反応を導くことが可能です。
本稿執筆時点では研究成果を論文投稿準備中のため詳細は省きますが、留学先では不斉反応開発において効率的な研究環境が整えられていました (Figure 4)。
- Figure 3. 簡略的に示したBIMP触媒
- Figure 4. 反応の様子
オックスフォードは、日本でいえば京都のように歴史的建造物が立ち並ぶ美しい町ですが、私が研究を行っていたDixon研究室の拠点である Chemistry Research Laboratory(CRL) は、ガラス張りの現代的な建物で、最新の研究設備が整っていました (Figure 5)。研究室では、毎週「GM」と呼ばれる研究報告会と、「EGM」と呼ばれる勉強会が開かれており、日々刺激を受けながら研究に取り組みました。また、オックスフォード大学には日本にはない「カレッジ制度」があり、学生同士の会話でもよくカレッジの話題が出てきました。各カレッジにはそれぞれ敷地があり、中にはバーやコモンルーム、学生寮、そしてダイニングホールが備わっています。日本の大学とは大きく異なる文化であるため、とても新鮮でした。特に印象的だったのは、ダイニングホールで開かれる「formal dinner」という招待制の晩餐会です (Figure 6)。格式高い雰囲気の中で食事を楽しむことができ、私も数回参加する機会に恵まれました。
- Figure 5. CRL
- Figure 6. Formal Dinner
「イギリスといえば料理が美味しくない」というのはよく言われることですが、実際に住んでみて、まさにその通りだと感じました。味付けはどれもワンパターンで、正直なところ楽しみは少なかったです。その一方で、韓国料理や中華、タイ料理やネパール料理など、エスニック系の料理は美味しく、外食ではよくお世話になりました。毎週水曜日から土曜日には世界各国のご飯が楽しめられるマーケットが開かれ特におせわになりました (Figure 7)。
最後に本留学は、GP-Chemのスタッフの皆様の多大なご支援のもと成り立ちました。また、快く受け入れ許可をいただいたDarren J. Dixon 教授、Dixon groupに所属するすべての学生、イギリスで出会ったすべての皆様に心より感謝申し上げます (Figure 8)。

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